BeatWorks

マレット(打楽器を演奏するバチ)に絵具をつけ

キャンバスを叩きながら描く。

キャンバスの裏にピックアップマイクが取り付けてあり

エフェクターを通して描く線が色が音になる。

作品世界の音も表現する。

音の痕跡としての絵画であり、小林広恵が描くにあたって最も大切にしている、画面の「リズム」をメインに発明したBeatWorksシリーズ。リズムは間であり、緩急であり強弱である。それは色も、音楽にも演劇にも、すべての表現に通じ、境目のない美である。そして楽しみでもあり、鑑賞者が参加できるようにも展開している。

こちらはダンサー鈴村由紀さんとのコラボ動画になります。

『Beat Worksが生まれた経緯』

ライブイベント「ゼロコンタクト」を開催し出演していた2017年ころ、はや描きで伴走する音楽などに合わせて叩くように描くとき、筆音もまた面白いと感じました。そのときは紙や紙を貼ったパネルに描いていたのでイメージは「紙ドラム」でした。吊るした紙の方が音が軽く、跳ね返ってくる紙を絵の具で捉えることも面白いのでは?と考えていました。即興イベントにアート作成として出演させていただいたとき、紙を破く音もギターの音を突き抜けていくようで興味深かったというのもあります。

そこで共演した音楽をされる方に一緒に考えませんか?とお誘いしてみたところ、「開発費は500万円はありますか?仕事みたいで面白いですね」と返ってきました。とんでもない、、材料費いちまんえんくらいで、、なんて言えずすぐさまお断りいたしました。

音楽の知識は小学生のときから下手なピアノを6年間習っていたくらい。一人でなんとか頑張ろうと、向きあっていくうちにパネルをカホンのように改造することを思いつきました。カホンは直方体の木箱の中にギターの弦が張ってあって、椅子のように座ってそのまま叩いて演奏する楽器です。パネルにギターの弦や鈴、ドラム用のバネを仕掛けて、描くと音が響くように改造しました。同時にマレットを使用しだしたのもそのタイミングです。それもまた、ライブペイントで発表しております。

が、ここで断っておきますがあくまで私は絵描き。画家として絵を描くことが主体。音は絵の時間軸を共有するとっかかりであり、音の痕跡としての絵画というのもそのとき自分がしていたのは少し異なります。しかも模索中で、とても実験的なもの。というのも絵画表現に行き詰まっていてなんとか様々なことを体験し様々な人と出会うことで、いち画家というよりは現代美術家でありたいと願いなんとかフィードバックできないものか‥という中のことでした。(実際にその数年かの油彩の作品はキャンバスにマレットで描いています)

その後、共演しているダンサーさんがヘアピンで作ったカリンバにアンプを取り付けているのを見て原理を教えていただくと、これはキャンバスに取り付ければ楽器になると思いました。なんとも単純ですが影響受けやすいというか。さらに実は私はアクリル絵の具はさほど得意でもなくキャンバスに油彩がメイン。ならばキャンバスが必然となります。

しかし、今度はキャンバスの中で絵として語るだけではなく、「音楽」として成立しているか「パフォーマンス」として成立しているかが問われてきました。実際これはアーティストさんたちと共演してみないことにはわからないことでした。自分一人描いているのなら音がでて楽しいにちがいないのです。実際にこれはワークショップを体験していただけた方にはわかるかと思うのですが、止めどきがないくらいずっとやっていられます。

それを魅せるものへ昇華するには課題は今もなお山積です。現在では自分は演出にまわるのが一番良いのではと思いました。絵の具のセレクト、描画具の作成(引っ掻いたり叩いたり音のバリエーションを作るのに筆になるものを自作したり、様々な描画具を用意しています)、音の切り替えなど、やることは大変多くあります。また、ダンサーさんがパフォーマンスを行う場合は、私がやる場合は絵の経過に連なる音であったのに対して、身体表現の痕跡としての絵画と音となります。描いてはダメとずっと言ってました。ここを取り違えると現代美術のコンセプトとしては成り立ちません。また同時にBeat Worksが私の表現ではなく器として存在している、ということにもなります。

いまだ完成には程遠いBeat Worksですが画業の幾つかのライフワークのうちのひとつとして、ゆっくりではありますが今後も向き合い続けてまいりますので見守っていただけたらと思います。